余白

つらつらと積み重ねを

小さな地球”バイオスフィア2”

”バイオスフィア2”という実験場がアメリカのアリゾナ州にある。

Person, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=14658779による

Google Map(https://maps.app.goo.gl/Jk1WgyJbiTLEv4pg8

 

言ってしまえば小さな地球がそこにある。熱帯やサバンナ、果ては砂漠までの地球各地の様々な気候を模したものが広大なガラスドームの下に広がっているのだ。

1986年に建てられたこの施設は紆余曲折を経て、現在はアリゾナ大学の研究施設として利用されている。見学もできるので是非とも行ってみたい。

 

その"バイオスフィア2"にて8人が2年間もの間、外部の介入なしに閉鎖された空間内の物資だけを利用して生活した際の記録を読んだ。

 

本の中身は実験にまつわる体験談が主であり、実験の意義やその結果に関してはおまけ程度。

ただ実験場内の生態系を維持したうえでヒト並みの生活を維持することの困難さを垣間見ることができた。

 

先述した通り"バイオスフィア2"は閉鎖された空間である。ひとたび環境中で分解されない物質を使うとずっと残り続けるのだ。これが非常に危険である。

ヤドクガエルというカエルを知っているだろうか。熱帯雨林の中に生息するカエルの一種で、見た目が赤やコバルトブルーと色鮮やかなため、身を隠すことを知らないかのようなカエルである。

Ltshears - 投稿者自身による著作物, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=1552713による

色鮮やかな理由は単純、触れるだけで反応する強力な毒を持っているためだ。一説にはヤドクガエル1匹の毒でバッファロー1頭殺せるとも言われている。
ただこの毒はヤドクガエル自身が生み出しているのではない。ダニ類を食べ、地道にその毒を蓄えているのだ。

 

ヤドクガエルの例のように、何らかの物質が一点に蓄積していく現象を「生物濃縮」と呼ぶ。

「"バイオスフィア2"内部で分解できない物質を使うと危険」というのはこのためである。気づかぬうちに内部で育てた食べ物に毒が蓄積し、ヒトに牙をむくかもしれない。

 

では"バイオスフィア2"ではどのような対策を取っていたのか。

1つ目、事前にこういった化学物質を使うもの(例えば洗剤など)は持ち込まないよう徹底していた。

2つ目、空気の監視。料理を焦がした時の成分も有害になりえるので大変だ。空気中の微量物質は15分毎に検査されていたというのだから、その徹底ぶりがうかがえる。

3つ目、水の監視。水は単に飲み水としてだけでなく、"バイオスフィア2"内部の海や湖沼の監視も含まれる。ここでは雨を降らせるのもヒトの役割だ。

生物濃縮の観点からだけでなく、生態系の維持という観点からも空気と水の監視は特に重要だった。

炭酸ガスが増えすぎると毒性を持つし、減りすぎると光合成の阻害につながり酸素不足につながる。

水、というより雨が多すぎると、土壌中の栄養塩が海に流れ過ぎてプランクトンが増加→プランクトンの呼吸が増加→水質が酸性になるなど、その他の水棲生物を脅かすことにつながる。逆に雨が少ないと、陸上生物の水分不足や海の塩分濃度の増加につながり、これもまた生物を危険にさらす。

 

他にも酸素濃度の問題や特定生物の台頭・侵食、果ては人間関係など様々な問題があったようだが、個人的には電気がこの実験における一番の課題なのではないかと感じた。

"バイオスフィア2"は閉鎖空間であり外部からの介入はないと称したが、一部のモノに関しては外部から取り入れていた。その代表が電気だ。

実験場内の気温や水などの環境を制御するにも、ヒトが生き延びるために使う道具にも、何をするにも電気が必要だ。これを実験場内だけでカバーできるかというと否であろう。電気をいかに効率よく、省スペースで用意できるかがこの先重要になってくるのではないか。

 

近い将来、人類はその勢力を増して月や火星といった他惑星に進出せざるを得なくなるのだろう。その際に"バイオスフィア2"で見えた課題はそのままつながっていくだろう。

来るべき日までに解決に繋がる技術革新が起きるのか楽しみだ。さもなくば"バイオスフィア1"たる"地球"に住む生物を間引く他ないであろうから。